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zoom RSS 高丘親王航海記 を読む

<<   作成日時 : 2018/06/23 22:00   >>

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 とにかく、不思議で余韻の残る小説なのだった。

 全体に流れる頽廃的ムードと猥雑さは、若い頃の自分ならちょっと戸惑ったかもしれない。


高丘親王航海記 (文春文庫)
文藝春秋
2017-09-05
澁澤 龍彦


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 タイトルとなっている高丘親王は実在した人物で、平安時代初期の天皇、平城天皇の皇子である。

 父平城帝の譲位に伴い、嵯峨天皇の東宮となったが、父帝が嵯峨天皇との政争に敗れたため自身も東宮位を剥奪、一介の親王として生きることになった。二十代で出家、以後仏道修行に励み、弘法大師空海の弟子となるなど、平安初期の仏教界で活動した。
 彼は老年になってから唐に渡り天竺を目指したが、足取りが辿れるのは広州まで、その後の足取りは定かでない。



 この高丘親王とお供による天竺への旅路(フィクション)が、本書のストーリーである。
 航海記といいながら、彼らは移動の手段として商船に同乗させてもらうだけであり、乗船中の記述はそれほど多くない。
 むしろ、主人公の「内面への航海」というテーマが全体を貫いている。

 そして、運命の女である薬子(くすこ)。彼女と天竺というキーワードに導かれ、主人公も読者も夢幻の世界に遊ぶことになる・・・。

 薬子とは、「薬子の変」で知られる藤原薬子のことである。
 娘が平城天皇(高丘親王の父)の後宮に入るのに同行したら、相手が娘より自分を気に入ってすっかりいい仲になってしまうという、同性としては非難すべきか羨むべきか迷う女だ。(娘から苦情が出なかったか気になるところだが、歴史はそういうところまで語ってくれない)

 教科書通りの判断では、年若い男をたぶらかす悪女でしかないが、澁澤龍彦はさすがに女というものをよくわかっていて、高丘親王とのやりとりに薬子の魅力の本質を描き出している。

 少年の日の鮮やかな薬子の印象と、東南アジアの頽廃的で濃密な空気からエロティックな雰囲気が醸し出されるが、高丘親王が貴顕で高齢かつ僧職にあるため、全体として不思議な品の良さが保たれるという、稀有な文体である。

 高丘親王の最期はちょっと悲しい。
 予定された輪廻転生の一コマとはいえ、親王と東南アジアを逍遥した小説一冊分の時間が終わる悲しさとでもいえようか。



 澁澤龍彦は、戦後から昭和の終わりまで活躍した著名な小説家、フランス文学者であるが、私は彼の本を読んだことがなかった。
 検索してみればわかるが、「良家の子女」や「青少年」が読むには刺激が強すぎるようなタイトルが並んでいるため、なんとなく敬遠していた。
 他の著作はわからないが、この本から得られるのは、「上質な日本語の本を読む楽しみ」である。
 ケータイでも小説を書ける世の中だからこそ、こういう小説が復刊されたことが嬉しい。




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