2007年スイス旅行記その9~ツェルマットへ(続き)

長いトンネルを抜けると、そこは陽光溢れる広い谷間の上だった。ローヌ谷。スケールが大きすぎて、谷と認識できるまでしばらくかかる。電車は、なぜここに線路が?という急峻な山肌に貼りつくように走りながら高度を下げる。この区間もなかなかの迫力である。低地に降りてしばらく走り、ブリークで下車。

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駅舎を出てすぐ隣りがマッターホルン・ゴッタルド鉄道の乗り場である。登山鉄道はどこでもそうだが、ホームが低くよいしょ、という感じで電車に乗り込む。小柄な人やお年寄りは荷物があったら大変だろう。

ツェルマットまでマッタータールという谷を遡っていくが、全体に荒れた景色で、目も眩むような峡谷や山ひとつ崩れたような崩壊地があり、とても人が喜んで住む地形ではない。しかし見上げるような谷の上にも集落があり(平家の落人でもいそうだ)、日常生活に支障がないのか不思議である。

いよいよ、ツェルマット到着。忘れないうちに、駅の窓口で氷河急行の食事のことを聞いてみよう。駅員はまた青年だったが、今度は愛想も顔もいい人だ。グリンデルヴァルトで買った切符を見せながら、食事付きにしたいんだけどと訊くと、彼はじっと切符を見てから、「この電車、もう出ちゃったよ」と言う。はっ?「ほら、日付、今日でしょ?」・・・もう、頭の中真っ白である!メモを見せていちいち説明したはずなのに!私もなぜその場で気付かなかったのか。

しばし絶句するが、この切符はそもそもバカ高いのだ、紙くずにはできない。何とかしなければ!「今朝、このメモを見せてグリンデルヴァルトで買ったばかりなの、ほら、日付も書いてあるわ。どうしよう、信じられない」と拙い英会話力を駆使し泣きそうな顔で懇願すると、彼も「今朝買ったの?グリンデルヴァルトで?そりゃおかしいね」と同情してくれ、他の駅員としばらく相談したあと、「大丈夫、あなたのミスじゃないよ」と新しい切符を発券してくれた。何ていい人だ!ついでに食事の予約もできて、めでたしめでたしであった。それにしてもグリンデルヴァルトの駅員の兄ちゃんよ、今度会ったら(いつ?)ただじゃおかないわ!

ツェルマットは一般車乗り入れ禁止なので、駅前のタクシープールには電気自動車と馬車がずらりと居並び、一大観光地の様相を呈している。しかし、私は隣のゴルナーグラート鉄道に向かう。今日のホテルはゴルナーグラート鉄道の終点、クルムホテル・ゴルナーグラートである。

往復券を買う時に「帰りは明日」と告げると、ツェルマットの駅から出ない限り、どこで何度乗り降りしても、何日いても有効な切符だとのこと。沿線で気の向くままハイキングしたい人には嬉しいシステムだ。

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夕方なので、登山鉄道は一両に私ひとり。この電車、車両の床が洗濯板のようにギザギザだ。通路を移動するにも、視覚と身体感覚が合わず段差でつっかかる。こんなことは初めてで、子供や老人なら怪我しそうだ。

駅を出ると、マッターフィスパ川を渡って山を登っていく。前方にマッターホルンがあるはずだが、雲が低くどこにあるのかすらわからない。まあ、二日滞在するうちに一度くらい見えるだろう。途中、支柱が斜めに見えるほどの勾配で登っていく。なるほど床が斜めなわけだ。

ローテンボーデンから先は荒涼とした景色で、右手に次々氷河が現れる。雪と氷と岩の世界。生き物を拒むような、大げさに言えば、魂を揺さぶるような景観である。うっとり。

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天文台を二つ乗せたホテルが見えて、終着駅ゴルナーグラート。ホテルは駅のすぐ上である。
スイスに来た以上、一度は山岳ホテルに泊まりたい。そう思い奮発してここを選んだ。数年前改装して山小屋調から高級路線にシフトしたらしく、電化製品も水まわりも最新式、特に廊下やレストランの木目をふんだんに生かした内装が素敵だ。部屋も全て山の名前が付けられている。

部屋は四階の真ん中、マッターホルンビュー。しかし、雲が立ち込めているうえ雨まで降り出して、眺望はもはや絶望的である。まあ仕方がない、限られた旅程の中で、こればかりは運だ。

レストランで夕食を頂いているうちに、雨が雪に変わる。ほんとに高所なんだね。メニューは前菜のビュッフェ、野菜ポタージュ、サーロインステーキ、デザートにプラムダンプリング。このデザート、温かいマシュマロのような甘い生地の中にプラムを煮た物が入っているが、これが強烈な酸っぱさ!どう考えても梅干そのまんまの味である。しかも、上にはグラニュー糖がどっさり。驚いたが、不味いというわけでもないし、これがスイス人好みの味なのかなと思って全部食べる。しかし、他のお客は(5組ほどだがすべて日本人)ほとんど残していた。味覚のギャップは、年配の人にはキツイのだろう。

食事を終えて部屋に戻る頃、雪が止んだ。夜の9時近いというのに、空はかなり明るい。標高が高いからだろうか。部屋は暖房が効いて、外の寒さ(氷点下かも)が嘘のように快適である。今夜は、人生で一番高い所のベッドで寝る。それにしてもマッターホルン、どこだ~!

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