源氏物語を知っていますか を読む


源氏物語を知っていますか (新潮文庫)
新潮社
2015-11-28
阿刀田 高


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 仕事を辞めて札幌に住み始めてから、源氏物語を原文で(というと語弊があるけど、ようは古文で)最初から最後まで読んだ。
 もちろんいきなり原文で内容がすんなりわかるはずもなく、マンガや現代語訳でストーリーを知っているからチャレンジできたのだ。

 読み比べると、原文がいかに優れた文章であるかがよくわかる。
 現代語訳は色々あるが、総じて「説明しすぎ」。初めて読む者にはストーリーを進めるためにある程度の補足が必要だとしても、原作がわざわざさらりと流したような、読者の想像あるいは教養に頼るような部分をくどくど説明されると、せっかくの格調高さや流麗さが損なわれる。
 「教養」と書いたのは引用されている漢籍や和歌の知識、あるいは当時の貴族のふるまいことで、実際脚注がないと凡人の私には手も足も出ないのであるが、当時の読者(知識層)は上の句の一部を聞けば、「ああ、下の句のあれをほのめかしているのだな」と瞬時にわかって澱むことなく読めたのだろうから、私たちもそんな気分で読み進めるのが作者に対する礼儀だろう。

 というわけで、原文セットを手に入れてからは、誰が書いたものであれ、現代語訳を全く読まなくなった。それほどに、原文はすごいのである。 

  
 そこに今更「源氏物語を知っていますか」って・・・・・・アンタ、必要ないじゃん。
 そうなのよね。必要ないんです。
 それでも買ってみようと思わせるのが、阿刀田高の「紹介力」。
 
 阿刀田高は小説家であるが、私は彼のライフワークのような「古典紹介シリーズ」しか読んでいない。
 「ギリシャ神話を知っていますか」に始まり、新旧聖書に古事記、ホメロスにダンテにシェイクスピアと、誰でも聞いたことがあるけど、全部読んだ人は少なそうな古今東西の古典を、日本人にわかりやすく、しかもユーモアを込めて解説している。
 西洋画や西洋文学を深く味わうためには古典の教養が必須だが、聖書やプルターク英雄伝をイチから読む根性の無い私には、邪道といえど阿刀田高の本がどれだけ役に立ったことか。

 そんなわけで、この本も、阿刀田高が「源氏物語」をどう料理するのかが知りたくて読んでみることにしたのだった。

 本書の内容は、源氏物語五十四帖のストーリーを順に説明していったもの。現代人にもよくわかるよう、ポイントを押さえて長く横道の多い話をコンパクトにまとめている。
 何しろ登場人物が多いので(しかも官職名で呼ばれ、出世に伴いコロコロ変わる)、誰が何をしたかを追うだけでも一苦労だが、本書はうるさすぎない程度に説明を加えながら、メインテーマである源氏の恋物語を追う構造になっている。
 これを読めば、取りあえず「源氏物語を読んだ」気になれることはいうまでもない。

 しかし、あえてケチを付ければ、ほかのシリーズに比べ突っ込みが足りない。「旧約聖書を…」や「シェイクスピアを…」では著者のふんだんな知識に基づいたハッとするような解釈が披露されていたのに比べ、源氏ではオブラートに包んだような、ソフトな解説に終始している。
 本書は原作はもちろん現代語訳から英語訳まですべて読んでの執筆であるから、著者の知識が不足しているわけではない。
 うーん、この「奥歯に物の挟まった感」はなんだろう?


 そこではたと気づく。阿刀田氏も、やっぱり私と同じことを感じたのではないか。つまり、解説しすぎることの「野暮さ」。
 
 必要最低限の情報を補足し、「ストーリーはわかりましたね?これ以上のことは、他の現代語訳や原文で味わってくださいよ」…
 源氏物語ほど完成度の高い物語にあっては、それが一番正しいアプローチなのだろう。


 蛇足ながら、源氏の君はその名の通り、臣籍降下した賜姓源氏である。天皇の子でありながら、天皇になる道を閉ざされた、挫折からのスタート。
 表向きの華やかさに目が行きがちだが、源氏の君が兄へのコンプレックスを抱えながらしたたかに政界を駆け上っていき、成功、そして因果応報の結末を迎えるという男の人生譚として読むと、よりいっそう深さを楽しめる。


 私が持っている原文はこれ↓


源氏物語〈1〉 (古典セレクション)
小学館


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 単行本サイズだけどソフトカバーで、見開きに原文、脚注、現代語訳が併記されているので、非常に読みやすい。巻末に専門的な注釈が付いているのもありがたい。







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