説得 を読む




説得 (中公文庫)
中央公論新社
ジェイン オースティン


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 この本は、最初に岩波文庫版を買い(タイトルは「説きふせられて」)、その後出た中公文庫版も買ったほど、好きな話。

 なんで書こうかと思ったかというと、ある内親王とそのお相手のことが頭にあったから。

 報道されていることがすべて真実とは思えないので(本当だったらそれこそ大変だ)、個人的には彼女の好きにすればいいと思うが、国庫から支出される持参金が高額なことが、国民にとってこの問題を(問題があるとして)複雑かつ感情的にさせている原因だろう。

 貢いだお金を返せという人もどうかと思うし、親が貰った金だから関係ないというのは法律上は正しいのかもしれないが、学費に使われたというのが本当なら、それ相応の感謝や誠意を見せて、結婚前に身の回りをきれいにするのが結婚相手に対する「マナー」だと思う。だから私も仕事を辞める前に、自分の借金(奨学金)はすべて返した。
 彼らの経済状態はわからないが、一般の家庭でも、嫁ぎ先に「金銭トラブル」があるといわれれば、親としては二の足を踏むだろう。
 人生に障害が立ちはだかった時、人はどう行動するか?
 やみくもに突っ切るか、
 避けて歩くか、
 戻って違う道を探すか、
 その場で風向きが変わるのを待つか。

 それを踏まえて、本の話。


 
 主人公のアンは、準男爵(男爵の下、世襲だが身分は平民)家の次女。
 教養があり、おとなしい性格で、落ち着いた美貌の女性である。

 若い頃、村の牧師の弟ウェントワースと恋に落ち、結婚を誓うが、当時のウェントワースがほぼ無一文だったため、家柄を鼻に掛ける父や姉、この結婚を無謀と思う親しい婦人の説得によって、結局二人は別れることになった。

 アンはその後も密かにウェントワースを想い続けるが、ウェントワースは破局の原因が彼女の意思の弱さにあると思い込み、没交渉のまま八年が経つ。
 この間に、ウェントワースは海軍で出世し、社会的地位と財産のある男になっていた。

 その後、ある事情からアンの前にウェントワースが現れるが、彼はよりを戻そうともせず、二人は社交の仲間から「ただの古い知り合い」として扱われる。

 社交仲間の女性がウェントワースに恋心を抱き、二人は相思相愛とまわりが思い始めた時、ある事故が起きて・・・ 
 というのがあらすじ。

 
 結論を言ってしまえば、ウェントワースは自分がアンを誤解していたことを悟り、アンの変わらぬ愛を確かめ、二人は結ばれる。

 ここでアンは、「あの時別れた自分の判断は正しかった」と言うが、それは無謀な結婚を諦めたことではなく、自分を大切に思う人たちの意見に逆らい失望させなくてよかった、ということである。

 いずれ出世する男なら、反対を押し切って結婚しても同じ事だったじゃない、と思うのでは作者の意図は伝わらない。
 たとえ障害があっても、相手が待つに足る男であれば結ばれる日も来る。そうでなければ、それだけの男だったのだ。
 つまり、大事なのは「待つに足る男」かという点なのだ。

 最初、二人の社会的地位は天と地ほどにも違ったが、再会した時には準男爵家は伝来の屋敷を維持できないほど傾き、ウェントワースは海軍大佐というひとかどの地位に就いていた。
 今ではウェントワースのほうが金持ちで、アンは本来貰えるはずの持参金も用意してもらえないなど、経済状態も逆転している。
 それでもウェントワースは迷わずアンを伴侶に選んだ。
 つまり、地位や財産ではなく、アン自身を選んだということである。



 というわけで、内親王の幸せのためを思えば、お相手が「待つに足る男」で、いずれ世間の納得する男になってくれれば万々歳なのだが。
 おそらく、そっと見守るというのが正しい国民の姿勢と思うが、妹宮の言うように、手前勝手なメディアのせいで現在内親王は不必要な中傷にさらされている。
 お相手が本当に内親王のことを想うなら、今の中途半端な関係をいったん解消し、世間の憶測から彼女を開放すべきだろう。
 ウェントワースの姉の言うように、「結婚するあてのない長い婚約は、家族が止めてしかるべき」なのだから。



 末尾になるが、これはジェイン・オースティンの6つの長編小説のうち、最晩年に書かれたものである。
 季節の移ろいと、アンの心の揺らぎが響きあう、静かで美しい小説だ。
 自分も年齢を重ね、こういう小説をきちんと味わえるようになったことがただ嬉しい。